『俺の・・・本当の望み・・・』
『そうだ。お前の根底にある、隠そうとしている本当の望みを言ってみろ』
「俺の・・・望み・・・・か」
部屋で一人ライガットは苦悩する。
帰ってきてからというもの誰の声にも反応しなかったのにシギュンだけには反応してしまった自分がいる。
寝起き、というのもあったのだろう。だがそれ以外の感情を感じている自分もまたいた。
シギュンと一緒に城を出て町へと向かう。休戦中なのに人が居ないのはやはり大勢の人が避難しているからなのだろう。
その後服(水着)を買ったり、似顔絵を共に描いてもらった。
『お前の本当の望みを―――』
あいつの――ジルグの言葉が蘇る。
俺の心の奥にしまっていた思い。もう出すことはないと、出してはならないと封じ込めていた扉。
ジルグに言われるまで気づきもしなかった、いや気づかないふりをしていた。
改めて認識してしまった。彼女は親友の妻なのに。もう学生時代に置いてきた思いだったのに。
シギュンと過ごす暖かな時間が心地よければ心地よいほどライガットを苛む。
二人で誰も居ない大オアシスの浜辺へきた。
予想どうり、というかやっぱりシギュンの水着姿は眩しいほど似合ってた。
「折角だから泳げるようになってみるかー?」
シギュンの手を引きながら彼女に泳ぎの練習をさせる。
のんびりと泳ぎながら浜辺から少しばかり離れたところで彼女をからかう。
「水の中だと軽いなー。『水の中だと』」
案の定怒られた。顔を押さえつけられ水面で謝りながら抵抗する。
シギュンのお怒りが治まったのか、攻撃が終了し一息つくと自然と笑みがこぼれる。
「はははっ・・・・」
楽しいと、嬉しいと、そう感じてしまった。この俺が。
平然と平穏と幸せを享受している。許されていいのか、こんな俺が。
バルド将軍はもう俺は特別な存在だといった。・・・どこが特別なんだ。
命令を無視して仲間を危険に晒し、デルフィングを壊し、ジルグを殺したこの俺がっ!
堪えきれずに頬を流れる水と共に涙が落ちる。
力がない自分が悔しかった。せっかく分かり合えたジルグを失った。
せき止めていた想いが決壊する。
泣いていることに気づいたのか、シギュンが俺の頭を抱きしめてくれた。
彼女の柔らかい腕とぬくもりに包まれる。まるで俺を癒すように、優しく。
何も追求しない彼女がとても俺を気遣ってくれていたんだと気づく。
そんな彼女に縋りつくように、彼女の体を支えていた腕で抱きしめる。
今だけは・・・こんなことをする俺を許して欲しい。この涙が止まるまででいいから・・・。
一度溢れたものは止まることを知らず、とめどなく流れ続ける。
抱き合う二人を雄大なオアシスは静かに見守っていた。
あとがき
8巻ライガット視点です。彼女と居る時間が楽しいからこそのつらさを感じたんではないかと。
それが引き金で戦い始めてから溜め込んだ全ての想いがあふれたんじゃないかなぁ。
オアシスで抱き合う二人の絵は切なさ一杯です。
せめて今この瞬間だけ――このぬくもりに縋りついていたかった。