ついさっきまで私を支えていた腕がこんなにも震えている。
農業で培われたその逞しい腕は今私を落とすまいと必死で耐えているかのよう。
あるいは悲しみに耐えるために縋り付いているのか。
あんなにも飄々としている彼がここまで心を痛め、苦しんでいたことに気づけなかった自分が悔しい。
嗚咽をこらえながら静かに涙を流す彼をただ見ていることなんて出来なかった。
彼の頭を抱きしめる。せめて今だけでも、心置きなく彼が泣き続けられるように。
ふさぎこんでしまったライガットを連れ出すために一緒に出かけた。
彼が帰ってきてから一度も話をしていなかったが連れ出したライガットは元気そうだった。
その胸に秘められた思いも知らずに。
服を買ってもらって、似顔絵を一緒に書いてもらった。
そして今、この雄大なオアシスで彼は今静かに涙を流している。
本来彼は関係ない人間だった。なのに私たちの都合で彼を戦地へと引きずり込んでしまった。
穏やかに暮らすはずだったその人生を踏みにじり、こき使う私たちをきっと彼は怒らない。
それは彼が強いから。きっと笑いながら「なんとかなるって」と言うに違いない。
いつもやばくなったら逃げる、なんて言ってるくせにここぞという時ばかり立ち向かう。
決めたのは彼であってもきっかけを作ったのは私たちだ。彼を人殺しに、戦争の道具としての道を歩ませてしまった。
だからこそ今彼は傷つき、苦しんでいる。私は何の力にもなれない、それがつらい。
一番つらいのはライガット自身なのに。
戦うと決意した彼を馬鹿だと思いつつ嬉しいと感じてしまった自分が居た。
彼の機体が彼を守ってくれるように研究に没頭した自分が居た。
いつの間にか自分のそばに彼が居ることが当たり前に感じている自分が居た。
私は嬉しかったんだ。ライガットがまた私の身近なところに居てくれる今が。
もう会えないと、最後に会えてよかったと、そう思った。けれど彼は友を、国を守るためにここにいる。
彼を戦いへ送ることに痛みを感じながらも、共に過ごす時間が心地よかった。
今ライガットは私の前で、私と彼の二人きりのこの場で涙を流している。
彼が私をどう思っているか、そんなことはわかりはしない。
私が居たから泣いてくれたなんてそんな傲慢なことは思えない。
けれど、けれど今だけは貴方の心を守るために貴方の支えになりたい。
張り詰めた糸はいつか切れてしまうものだから。
あとがき
ブレブレ初作品です。8巻最後のシギュンとライガットのデートの中でのシギュンをイメージ。
ブレブレは登場人物が比較的明るかったんで切なさとかあんまり感じなかったんですけど、8巻で怒涛のごとくきましたね。
ライガットとシギュンが抱き合うあの絵に惚れました。
せめて今だけでも貴方の支えに――。